彼の瞳に捕まりました!



学生って楽だったよなぁ。

なんて唐突に思う私は、アホなのかも知れない。

別に仕事がイヤになったとかではない。
自分がなりたくてなった職業だから、やり甲斐もある素敵な仕事だと思う。

だけど、
学生の頃は、会いたくなければずる休みでも何でもして会わない選択を取れた。
大人になった今、それは絶対に許される事ではない。

だから、今日もまた彼の運転する車に乗る。

いつも通りにタバコをくわえながらハンドルを握る高瀬。

この間、頼まれた買い物を暗室に持って行かなかった事を咎める事はなかった。
というか、何もなかった。
ありがとう。
の一言も―――

高瀬の横顔をチラチラ見ながら、携帯を操作する。

あの日から毎日のように浅川社長からメールが来ていた。
今もその返事中。

浅川社長のことは嫌いじゃないけど、そういう気持ちもない。
自分の中でハッキリしてるのに、きっぱりと断る事が出来ずにいる。

それも大人になった故ならば、皮肉だ。

やっぱり学生って楽だよね。

そんな結論を胸にしながら送信ボタンを押した。


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