彼の瞳に捕まりました!
「夕べはすまなかった。半ば無理矢理だったと反省してる」
耳元で囁くように社長は呟く。
その言葉に頷く事も首を振る事もできない。
「菜穂を失うのが怖かった。だからどんな形でもいいと、菜穂の意思を無視して自分のものにした」
その言葉に顔が上がった。彼は私を見下ろしたまま言葉を繋げた。
「菜穂は真面目だから、僕にきちんと気持ちを伝えにきたんだよね。僕の思いに応えられない。と……違う?」
「……そうです」
「うん、僕は菜穂に振られるはずだった。
だけどね、嫌だから狡い手を使ったんだ」
「……」
「自分の狡さに嫌気がさしたりもしたけれど、菜穂がいなくなる事に比べたら、そんなのどうでもよくなった」
「……」
「菜穂」
「僕に君の未来全部くれないか?」
真剣な眼差しの社長から目が離せない。
きつく抱きしめている腕はより力を増して、動く事もままならなかくて、
だけど――
「ごめんなさい」
彼の目を見つめながら、はっきりと返事ができた。
そんな私に社長は、困ったように眉を下げると腕の力を少しだけ緩めた。