彼の瞳に捕まりました!
なんとなく晴れ晴れとした気持ちで、仕事を終え、マサル君と待ち合わせたバーへと急ぐ。
半地下の場所にあるそこは、大げさな看板があるわけでもなく、賑やかな通り沿いにあるにもかかわらず静けさが広がっていた。
木製の扉に「93」と書かれた金色のプレートの張られたドアをゆっくりと開けると、表の落ち着いた雰囲気と一転した賑やかな笑い声が聞こえてきた。
カウンターの高いスツールに座って笑い声をあげるマサル君。
その向かいには、この店のオーナーであるクミコさんがにっこりとほほ笑んでいた。
「こんばんは」
マサル君の隣に腰掛けながら、あいさつすると、
クミコさんは一瞬眉をひそめてマサル君に向かって舌打ちした。
「やだぁ、マサルちゃん。高瀬君じゃないのね」
「行成だなんて、一言も言ってないわよ」
「そうだっけ?」
クミコさんはそう言いながら、私に向き直るとにっこりと笑って
「いらっしゃい」
と、甲高い声を出した。
「高瀬じゃなくて、すみません」
「あら、やだぁ~違うわよ」
ぶんぶんと両手を振りながらクミコさんは私の前におしぼりを置いた。
「いつものでいいんでしょ?」
彼女は私に背を向け、棚に並んだお酒を手にして見せる。
その行為に苦笑いを浮かべながらもうなづくと、隣に座っていたマサル君が、
「ママ~濃いめにね~全部吐かせるんだから」
けらけら笑いながら残っていたお酒を一気に飲み干した。