彼の瞳に捕まりました!
一瞬、周りの全ての物音が聞こえなくなったように感じた。
目の前の社長の表情に背筋が凍る。
「選ぶのは、あなただから」
「……」
「幸せになるか、ならないか。
選択するのは、菜穂さん。あなただから」
決めるのは、私。
社長の言葉が、胸に刺さる。
「何があったのかは知りません。
ですが、今の菜穂さんは何かから逃げている様に感じます」
何かから逃げている……
確かに私は逃げているのかもしれない。
高瀬からも、サトコちゃんからも……
「先ほど、高瀬くんの名前を出した時、菜穂さんは露骨に表情が変わりました」
「え?」
「以前、出版社のロビーで偶然会った時、あなたは高瀬くんの隣で穏やかな表情を浮かべていました。
僕はものすごく嫉妬しました。子供のような感じですが、悔しかった。
だから、無理やりでも僕のものにしたかった。
まあ、結果は玉砕でしたけどね」