彼の瞳に捕まりました!


思わず顔をあげると、すぐそばに社長の顔があって、避ける間もなく唇が重なった。
思わぬ事に手にしていた鞄が音を立てて床に落ちる。
そんな事は気にならないらしい社長は、角度を変えて何度も唇を重ねた。

何かを惜しむかのように唇が離れ、

「お休み、菜穂」

そう言って社長は帰って行った。


―――――
―――
――


「はぁぁぁぁあ」

着替える事も出来ずに、ベッドに寝ころぶ。
思いだすのはさっきのキス。
出てくるのはため息だけ。

なんであんな事になっちゃったんだろ?

お礼って……
キスがお礼?

私にとってみたら、お礼より事故みたいな感じだった。

そうだ、事故。
事故なんだよ……
いつも高瀬がしてくるキスも事故みたいなもんだし……

高瀬とのキスが事故?
そうなのかな?

今まで散々高瀬の好きなように唇を奪われているくせに事故と思っていなかった。

その事に今更ながら気づいて、そんな自分に苦笑する。
そして、

「社長とのキスは事故。事故。事故なんだよ」

まるで自分に言い聞かせるかのように、何度も何度も繰り返しながら、いつの間にか眠ってしまっていた―――。



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