彼の瞳に捕まりました!
「それ、あと1時間で終わらしてね。印刷工場の方に無理言ってるの忘れてないよね?」
「……あ、はい!!」
はじけ飛ぶように自分のデスクに戻り、先程までの表情を一変させるとPCの画面を食い入るように見つめては、慌ただしくキーボードを叩きはじめる。
そんな彼女の姿に、思いっきりため息をつくと、デスクの下に放り込むように置いた鞄から財布を取り出し部屋を後にした。
廊下に出ると、出入り口の壁にもたれ、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる高瀬が立っていた。
その笑顔に一瞥をくれて、無言で通り過ぎた。
「無視なんて、らしくね~なぁ」
ケラケラと笑いながら、高瀬は私の後ろをついてくる。
「趣味悪いんじゃない?」
「何の事だよ?」
「何がお見合いパーティーよ。そんなくだらない話ししてるなら、やり直しさせといてよ」
「そこまで面倒見切んねえよ。俺は編集じゃねえし」
「そりゃそうだけど」
エレベーターホールにつき、ボタンを押す。
私の隣に高瀬は当たり前のように立つと、グレーのパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
「現像してたの?」
現像液特有のツンとした臭いのついたパーカー。
高瀬がこのパーカーを着ている時、現像室での仕事をしている事が多いのだ。