彼の瞳に捕まりました!
「よくおわかりで」
「におい」
「ん?あぁ、現像液のか?さすがだな。
小此木さんのを代わりにやってた」
「フィルムなんて珍しいね」
「指定されたみたいよ。よくわかんねぇけどさ」
前を向いたまま答える高瀬に「そうなんだ」と返事をして、タイミングよくやってきたエレベーターに乗り込んだ。
来訪者や他部署の人の奥に二人並んで立つ。
狭い空間の中、身体が高瀬に触れる。
そんな当たり前の事に、胸が苦しくなった。
やがて目的地についたエレベーター。
閉鎖的な箱の中から降りると、思わず深呼吸を繰り返していた。
「ナホ?」
財布を握り締めた手を胸に当てては深呼吸を繰り返しす私の背に手を置いた。
「酔ったのか?」
「だ、大丈夫……だからっ」
首を振る私の背中をそっと撫でる。
その行為に今度は鼓動が早くなった。
だから―――
優しいのはなんでなの?
その言葉を発しようと、顔をあげた視線の先に――――
小走りでこちらに向かってくる、浅川社長の姿が見えた。