彼の瞳に捕まりました!


「麻生さん」

その声に高瀬が振り返った。
そして、

「浅川…社長?」

と、呟いたかと思うと私に向き直って、

「約束してたとか?」

「ううん、してないよ」

「麻生さん。こんにちは」

チャコールグレーの質の良さそうなスーツを着こなした浅川社長が頭を下げた。

「こんにちは。お仕事ですか?」

「旅行雑誌の方で取り上げて頂くことなって、その打ち合わせにやって来た所なんですよ。麻生さんの所だなとは思っていたんですけど、まさか会えるなんて」

にこやかな顔を向ける社長。
その後ろから、秘書とおぼしき女性が慌てて駆け寄ってきた。

「社長。急にいなくならないで下さい」

カッチリとしたスーツを着た彼女は、社長にキッパリと言い切ると高瀬と私に頭を下げた。

「先日はお世話になりました」

「こちらこそ、色々とありがとうございました」

高瀬と二人頭を下げた。
そんな私達に社長が穏やかな声を出した。

「高瀬さん」

「はい」

「素敵な写真をありがとうございました」

「ありがとうございます」

高瀬はまた深々とお辞儀をする。
それにならってもう一度頭を下げた。


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