彼の瞳に捕まりました!
「社長そろそろ」
申し訳なさそうな声がかかって、顔を上げる。
「すみません、今度また」
社長はにこやかな笑顔を絶やさぬまま、エレベーターの中へと消えて行った。
「……ナホ」
「え?」
「社長と……いや、いい」
「え、何?」
「なんでもない。それより体調はいいのか?」
「うん……ゴメン」
謝りながら思う。
高瀬が言葉を濁すなんて、今までほとんどない。
胸にモヤモヤとしたものが増えていく。
けれど、それを聞いてはいけない。
そんな風に感じて……
言葉には出来なかった。
「コンビニ行くのか?」
「あ、うん。頭ガンガンして」
「……飲み過ぎかよ」
パーカーのポケットに両手を突っ込み、ため息を吐き出すように高瀬が呟く。
その呟きに、苦笑いで答えた。
「俺のも一緒に買ってきて」
「え?高瀬も飲み過ぎなの?珍しい」
「アホ。お前じゃあるまいし……昼飯買ってきてくれ。ついでにタバコ」
首から下げられた社員証のホルダーから、4つ折にされた千円札を取り出すと私に手渡す。
「足りなかったら出しといて、暗室いるから」
よろしく。と、片手を上げて高瀬はエレベーターホールへと踵を返す。
その背中を見つめたまま、しばらく動けなかった。