思い出博物館
「あれ、ここはどこだろう」

 僕は呟いてはじめて、ようやく竹林の前で自分が迷ってしまっていることに気付いた。
 つい最近、引っ越して来たばかりの僕にとって、ここの地理は少し難しかったようだ。入り組んだ道や似たような所が多いので迷いやすい。ましてや、建物ばかりが目立つ都会から、この田舎に来たので余計かも知れない。

「はぁ……。いつから間違ったんだ? 全然思い当たらないしさぁ。だから嫌なんだよ、こういう田舎は」

 僕はぶつぶつと文句を言いながら、取りあえず歩いた。竹林に沿って真直ぐ。
 歩く度にズボンのポケットに入った小銭がカチャカチャと音を立てた。気になってそれを取り出すと、一緒に方位磁石が出て来た。この町に来たとき、父が真面目な顔をしてこれを渡したのだ。

『お前はこういう所ははじめてだから、これ持っておけ。何かの時役に立つ』

 そう言って。
 父よ、ここはどれだけ田舎なんですか……。
 その時は、半ば言葉を失いかけながら受け取ったのだけれど、まさか、その“何か”がこうして訪れようとは。
 そして、問題がひとつ。
 どっちの方角に向かえば家に辿りつけるのだろうか。
 それよりだ。かなり根本的な問題。……地図すら無いままの方位磁石の使い方がそもそも、僕には全く分らないんですけど。

 本気で泣きたくなってきた。


   ★☆★

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