短編集
恋するテイパー
※カニバリズム表現あり


 人間の三大欲求は、睡眠欲、食欲、性欲からなっているけれど、私にはそのうちの睡眠欲と性欲が大きく欠けている。

 干したての毛布に包まって日向の当たる所でお昼寝がしたいだとか、学校にも行かないで二度寝三度寝がしたいだとか、恋人にハジメテを捧げたいだとか、芸能人と一晩を共にしてスキャンダルになりたいだとか、そんな怠惰で夢見がちな事を一度だって考えたこともない。頭の中はいつだって、オープンしたばかりのケーキ屋さんやパン食べ放題のお店の割引タイムやファーストフードチェーン店のクーポンの使用期限、クロッケン通りの期間限定メニュー、スーパーマーケットの大売り出し、今日の夕ご飯のメニュー、それから余ったところで明日の講義で提出しなければいけないレポートのことばかり。寝ている暇とセックスをする暇があるならコオロギでも掴まえて佃煮でも作るわ。それくらい、私の三大欲求はアンバランス。私はそれでもいいと思っていたのよ。私自身が幸せなんだもの、当然じゃない。

 でも実際はそうじゃあなかった。私の頭はいつの間にか性欲も食欲と勘違いするようになっていて、同じ語学の講義をとっているオガタくんを見るたびにお腹が空くようになってしまった。これじゃあまるで喜劇じゃない!


「かわいそう、オガタくん」


 高校からの仲であるキャメルが、キャラメルミルクティーを飲みながら愉快そうにそう言った。本当にそう思っていないかのような口ぶりは、彼女の特有でもあり、欠点でもある。私はキャメルの、ラクダのような長い睫毛の房を数えながら、かわいそうであるらしいオガタくんのおいしそうなソーダカラーの目を思い出す。あの目は、着色料をふんだんに使った甘いあまいキャンディーのよう。きっと彼の涙もソーダのようにシュワシュワと弾けて甘い味がするのだわ。



< 1 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop