短編集


「おいしそう、オガタくん」
「ちょっとテイパー!」


 キャメルが、ぼんやりとしている私の肩を叩き、大きな目で後ろを見るようにサインを送る。その様子は随分と焦っていて、彼女らしくないなあ、なんて笑いながら後ろを見た。そこには、話題の中心人物であり、私のお腹を無条件に空かせる張本人が少し困惑した表情を浮かべながら立っていた。

 オガタくんの様子からして、今さっきの独り言を聞いてしまったかもしれない。噂のタネになるだけでも良い気なんてしないのに、自分が食材になるかもしれない話しなんて、きっと耐えられない。私ですら絶対に嫌だもの。嗚呼、誰かに聞かれる可能性のある学生カフェテリアなんかでこんな聞かれちゃいけない話をするんじゃなかった。明日からあだ名は「テイパー」から「ヤマンバ」に変わるのね……。

 「うう……」と滲む涙をこらえ、食欲なのか性欲なのか分からない欲求を皮切り一枚で堪えてはいるものの、オガタくんの顔が見られない、オガタくんに謝られない。あえて空気を読まないキャメルが頼みの綱だというのに、「あっ、もう煙草ないんだった。ちょっと買いに行ってくるわね、あそこの角のところまで」と言い残して風のように去って行った。キャメルの今さっき言ったことはぜったいに嘘。だってカフェテリアに入る前、校内に設置されている煙草の自販機で煙草を三箱も買ったばかりなんだもの。あのキャメル、別の意味で空気を読まなかったんだわ。本当に酷いんだから!

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