短編集
「ハヤマって久しぶりに呼ばれたかもしれない」
「そういえば不思議なあだ名で呼ばれているよね。ていぱー、だっけ」
「そうね、不思議なあだ名。でも私にぴったりなのよ」
たこ焼き屋の看板を見た途端に元の広さに戻った視界は、グルグルと回ることもなくなった。それどころか、お腹はオガタくんのことなんてさっぱり忘れ、たこ焼きだけを求める。いつも通りグウグウと鳴るお腹の虫に、体が正常になったと言っているようだった。
オガタくんは、出来上がったたこ焼きを食べている間じゅうずっと、私にたくさん質問をしてきた。出身高校のこと、誕生日、家族構成、利き手、好きなこと、嫌いなこと、趣味、特技、住んでいる場所、お気に入りの音楽、好きな本、好きな国、お酒は飲むか、煙草は吸うか、どの講義をとっているか、付き合った回数、好きな男性のタイプ、初恋の時期……とにかく質問はあった。けれど食べることや食べ物にしか興味のなかった私は、殆んどの質問に答えることができなかった。それでもオガタくんは笑って、「ハヤマさんは食べることが好きなんだね」と言ってくれた。
「じゃあ、どうしてテイパーって呼ばれているか聞いてもいいかい」
「私が食べてばかりいるからよ。テイパーは、獏って意味なの」
「いいあだ名だね。僕もテイパーと呼んでもいいかな」
「どうぞ」