短編集
テラシマさんは女子の中で一番背が高くて、モデルのようだと誰からも一度は思われていそうな女子だ。綺麗で、大人っぽくて、運動音痴だけどそれ以上に勉強ができる。まるでクラスの中心に居そうなやつだった。けれどクラスの中心にはテラシマは居ない。なぜなら、寺嶋さんは俺たちが理解できないほどに前衛的な女の子だからだ。
たとえば、毎日持ってくる弁当が、虫と米しか入っていない俗に言う昆虫弁当であったり、骨の浮き出た体型と白の絵の具のように白い肌をしているところであったり、覇気も生気もないような目をしているくせに人の心を見透かしていそうな眼力を持っていたりしているところだ。読モを目指して日々自宅脱毛を繰り返している女子の逆境を行っていて、俺たちが理由を聞く暇もなく敬遠するほどに前衛的すぎる。あまりのテラシマ節に、誰もテラシマさんを理解する気が起らず、しだいにテラシマさんの半径1メートル、通称テラシマゾーンは人知未踏の地となった。
そんな戦々恐々としている教室の空気の中で、相も変わらず平然とカブトムシの幼虫の唐揚げを食べるテラシマさんはきっと、学校一厳しい体育の先生、通称ゴリラの説教と唾放射のダブル攻撃にも動じないほどの肝っ玉を持っていることだろう。その太い肝っ玉は、新学期の始業式あたりで表彰されるレベルに値するだろう、たぶん。
そんなテラシマさんだから、カリスマの塊であるクラスのリーダーですら、テラシマさんと目を合わせることができず、万が一合ったものなら裸足で逃げ出すほど奇妙がられていた。
しかし、クラスの下っ端の俺は知っていた。クラス一丸となってかかれば、テラシマさんがふつうの女の子のように泣くことを。なんせ、野生児かつメドューサの化身であるテラシマさんだけれど、挨拶代わりに紙くずを頭に向かって投げつけただけでも腰からポッキリとふたつに折れそうなほど脆そうな体をしているんだ。あの目と、昆虫弁当を封じて、テラシマゾーンに踏み込まないようにすれば、テラシマさんも俺のように、クラスから過激に愛されるはず。それこそ俺の存在なんか忘れ去られるほど夢中にただひたすら。