魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「神様…神様は…居ないの…?」


ベッドに寝かせたラスは虚ろな瞳で左手の薬指に嵌まっているガーネットの指輪を見つめていた。

…あれから片時も外していない。

お風呂に入る時も寝る時も…

この指輪だけが自分とコハクを繋いでいる唯一の形あるものだからだ。


「ねえグラース…神様が居たら…私とコーを会わせてくれたよね?居ないから…どんなに祈っても会わせてくれないんだよね?」


「神は…存在すると思う。現にフィリア女王陛下は神から魔法を使えるようにしてもらっただろう?ラス…祈り続けていれば必ず届く」


その励ましも耳に入っていないのか、ラスはずっと左手を見つめ続ける。


――何度も何度も、指を絡めて愛してくれたコハク――


あの大きな手、

あの長い指…


いつか忘れてしまうかもしれないと思うととても怖くて、現に今もコハクがどんな手をしていたのかはっきりと思い出すことができない。


「怖い…怖いよグラース…」


「…ブランデー入りの紅茶を淹れてきた。これを飲んで休め」


2年前までは快活だったグリーンの瞳は今となってはその輝きを失い、濁り、無表情ではあるがグラースをも苦しめる。


そんなグラースの手からティーカップを受け取って時間をかけて飲み干すと、身体を横たえて瞳を閉じた。


「お休み、ラス」


「うん、お休みなさい…」


…そう言葉を交わしても眠るまでグラースは傍にいる。

警戒されているのだ。


命を絶つのではないか、と。


瞳を閉じて眠っているふりをすると、グラースが部屋から出て行った。


しばらくして夢遊病者のようにふらりと起き上がり、ゆらりとした足取りで部屋を出て、1月の極寒の中ネグリジェとガウン1枚に裸足で螺旋階段を下りた。


目指す場所は…



「コー…会いに来たよ」



城の中央に設けられたゴールドストーンが鎮座してある封印の間。


その部屋の壁には…


コハクの命を奪った魔法剣が飾られていた。


――ラスはその前に座り、魔法剣を見上げて白い息を吐いた。


「…私も…この剣で…」


そうすれば、

同じ場所へ行けるだろうか?
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