魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ベルルが書いた移住を呼びかけるビラは何千枚、何万枚と次々に増え、次々と大きな布袋に吸い込まれてゆく。

まだ鼻をすすりながらコハクの首にしがみついてその光景を見ていたラスの髪を撫でたコハクは子供をあやすようにラスを頭上まで抱え上げながら泣き顔を笑った。


「きったね!鼻水出てんぞ」


「だ、だってぇ…」


「小僧は絶対協力するって。あいつはチビのことまだ大切に想ってるんだ。そう簡単に離れていきゃしねえよ」


「うん…そうだよね…コー、ごめんね、鼻水服に落ちちゃった…」


「いいって。ほら、鼻噛めよ。はい、ちーん!」


「ちーん!」


ティッシュを鼻にあててやると盛大に“ちーん”をして、ちょっと気が晴れたラスは袋に吸い込まれてゆく紙を1枚宙で掴み、読み直すとコハクに指摘した。


「コーの名前がないよ」


「俺は表舞台に立つのは嫌いだからいいの!あいつらには日中あちこち飛びまわってもらうけどチビは俺の隣!だから俺は幸せだけど、城に帰ったらあいつらを労ってやれよ。そん位の時間を持つのは許してやるよ」


「うん、わかった。コー、ありがと」


するとコハクがぱちんと指を鳴らし、もふもふの真っ白な毛皮が敷かれたロッキンチェア―をラスの影から出すと、そこにラスを座らせ、サラマンダーを召喚した。


「さ、蜥蜴共、やるぞー」


『お前の精神力、試させてもらう』


魔法陣から大型の真っ赤な鱗を持った蜥蜴と、ラスの腕で抱えられるほどの真っ赤な鱗の蜥蜴たちがわらわらと出現し、そのうちの一匹の首を掴んだコハクはロッキンチェア―に座ったラスの足元に置いてストーブ代わりにした。


「口は縛っておくから炎は吐かねえ。触ってるだけであったまるからこれ持ってあったまれよ」


「うん!わあ、あったかい!」


早速小さな蜥蜴を抱っこしたラス…いや、蜥蜴に密かにやきもちを妬きつつ、何百匹と出現した蜥蜴たちに空中庭園の隅の方にまで追い遣られていたリロイたちに大声で命令した。


「早く犬や蜥蜴のお化けに乗り込め!それ持ってってちゃんと配って来いよ!」


「わかった!影、お前も頑張れよ!」


「うっせ、あったりめえだ」


いよいよスタート。
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