魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その夜は、ベルルと満足に言葉も交わさぬまま同じベッドに入って手を握り合って眠った。


こうして想いを共有できる人は…居なかった。


コハクのことが大好きで、

自分の影になる以前はずっとコハクと一緒に居たベルルに嫉妬したこともある。

だけど今は…傍に居てもらえて、とても嬉しかった。


「今日は…コーの夢…見れる、かな…」


――今までこの2年間、コハクは夢にも現れてくれなかった。


毎日毎日神に祈り、眠る前にはせめて夢で会えるようにと願いながら眠るのが癖になっていた。


そして安心感からか睡魔が襲ってきて夢の世界へと旅立った時――



『……ビ。こっちだ』


「え……、コー…?」



10mほど先の真っ白な世界に、会いたくて会いたくて仕方のない男の姿が在った。



「コー!コー!!コーだ、本当にコーなの!?待ってて、そっちに行くから!」



…だがコハクは悲しい笑顔を浮かべていた。


あの時と何ら変わらない姿だ。

赤い瞳は相変わらず鮮やかで、左手薬指にはお揃いのガーネットの指輪も嵌まっている。


それが嬉しくて嬉しくて、

必死で駆けるのに、ちっとも距離が埋まらない。



「コー、どうして!?コーに触りたいのに…!コーこっちに来て!私だよ、ラスだよ!コー!」



必死に叫んだ時――



『………ディンに、会え』


「え…?今なんて言ったの…?コー、聞こえないよ…!」


『オーディンに…』


「やだ、やだ、コー!」



背の高いコハクのすらりとした姿が霧の中へと消えてゆく。


「やだ、コー!やっと会えたのに!」


転んでひざを強打しても必死に起き上がり、完全に消えてしまったコハクが立っていた場所に向かって、叫んだ。



「コー、絶対に捜すから!会いに行くから!待ってて!」



会えた。

夢の中でも、コハクに一瞬だけでも会えた…!


ラスは誓った。


必ずコハクを取り戻す、と。


――そしてその時、どこかでひとりの男が目覚めた。



「…チビ」


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