魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
聖石を保有する各王国の領地には絶対に魔物が侵入できるはずがないのに、ケルベロスはあっさりと入ることができた。

これも恐らくオーディンの力なのだろうが…

魔力を失ったローズマリーにとっては少しだけ羨ましくもあった。

コハクを追い出した時も、自分が魔法を使えなくなり、平然と魔法が使えるコハクを妬んだのが理由のひとつでもある。

所詮人間は他人と自分を比べてしまう矮小な生き物。


「で…、グラースはゴールドストーン王国に?」


「ええ、ラス王女の身辺を警護しておられます。口癖は“私はもう王女じゃない”。お元気に過ごしておられますよ」


難しい表情を決して崩さないグラースの父であるリントンは、むすっとしたまま玉座に座っていた。


「イエローストーン王国の再建に力を貸せと?王女ではないといいながら書状を書いたのは何故だ」


リントンの傍らには皇太子ダリアンの姿が。

リントンよりも心配そうな表情で話を聴いており、何も事情を聴いていないオーディンとローズマリーは、グラースが王国に戻ることを拒否した理由をここに見出した。


「これは私の私見ですが…グラースは、ラス王女が幸せになることによって、自身も幸せになれるのだと信じているようです。その書状は“最後の手紙だ”と言っていました」


リントンとダリアンが食い入るように手紙を見つめた。

だが書かれていた言葉は一言だけ。


“どうか王国の再建に協力を”


…たったそれだけ。


リントンはグラースに冷たくあたり、ダリアンは腹違いの妹に抱いてはならない想いを抱き、無理矢理一夜を共にし、結果…出奔させてしまったのだ。

それを2人共悔いていたが、グラースはもう戻らないだろう。


だから、できることは決まっている。


「…何を望んでいる?」


「住民に呼びかけ、もし移住を希望するならば、引き留めないで頂きたい。たったそれだけですよ」


「だが…聖石は無いのだろう?もし魔物に襲われたら…」


「名をクリスタルパレスと改め、コハク様が水晶の女王と契約を済ませています。今後は水晶が守ってくれるでしょう」


父と兄は顔を見合わせた。

グラースのために協力しよう、と。
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