魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その頃ラスはコハクと合流するためにキッチンへ行ったのだが…

そこには後片付けをしている魔物たちしか居らず、やや焦りながらその場を後にした。


…いつもなら捜してくれるのに。

あちこち部屋のドアを開けながらだんだん早足になり、焦りが募ってゆく。


「…なんかこういう気持ちって懐かしいな」


2年前なら、こうして置いてけぼりにされることが時々あった。

だがあの時コハクは自分の影だったし、いつも一緒に居られるものだと思っていた。


「コー、どこ?置いてっちゃやだ…」


せっかくみつけたのに。

せっかく会えたのに、どこへ行ったのだろうか?

何か怒らせるようなことをしたのだろうか?

どうやって謝ったら許してくれるのだろうか?


――ぐるぐる考えながら最終的に自室へ行きついて勢いよくドアを開けると…


「…居ない…。どこに行っちゃったの…」


かたん。


隣の部屋から音がしたので、グラースに聴いてみようと思ってドアをノックすると、返事はなかった。

居ても立っても居られなくなっていたラスがそっとドアを開けると…


「コー…どうしてここに居るの?」


「んー…?あーチビ。グラースから聴いてねえのか?」


“ボイン”だの“小僧”だの神経を逆なでする呼び名ばかりつけるコハクはグラースには変な呼び名はつけなかった。

自分の傍に、とコハクがグラースに言ってくれていたことは知っていたし、信頼していることが窺い知れる。


「なんにも聞いてないよ。なんなの?」


「俺たちの声がうるさいって部屋を移動したぜ。まあ仕方ないかー、でもこれからは俺がチビの傍に居るからさ」


「声?話し声がうるさかったのかな…悪いことしちゃった」


ベッドに寝転んでいたコハクの隣に座るとすぐに身体に腕が回り、大きくはあるが1人用のベッドに2人で寝転んだ。


「また置いてかれると思っちゃった…」


「は?俺がチビを?なに言ってんだよ…こっち見ろって」


鼻声のラスが真向かいになると瞳には涙が溜まり、コハクはそれを唇で吸い取ってラスの鼻をちょんと指で押した。


「泣き虫め」


悪夢は今も時々ラスを苦しめる。
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