魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
反論もできず、言い訳もできず、ましてや脚も動かない――

はじめての経験にコハクは戸惑い、ラスに恐怖を覚え、ぶるぶると瞳を震わせた。


「チビ…お、俺は…」


「……ラス、行こう。僕に捕まって」


「………うん…」


ラスがリロイに腕を伸ばして抱き上げられても、いつもなら罵声を浴びせる言葉はコハクの口から一言も出ず、ドアの開いた部屋からゆらりと出て来たスノウは…ガウンで身体を隠し、ひそりと笑った。


顔を上げたラスはそんなスノウを見てしまい、リロイはラスの喉から引き攣るような音がしたのを聴いてすぐに身を翻してその光景を見せないようにした。


「影…僕はお前を見損なった。お前は何も変わってない。ラスを裏切り、ラスを傷つけたこと…僕は絶対に許さない」


「ち、違う、チビ、俺は…」


ラスがリロイの胸に顔を押し付け、シャツがみるみる濡れる感触がすると、必死に嗚咽を堪えるラスの髪を撫で、言い訳をしようとしたコハクを置き去りにすると螺旋階段を上がった。


「ラス…影が来ないように僕が部屋の前で見張っておいてあげるから…今日は部屋から出ないで。いい?」


「……うん…リロイ…私…どうしよう…、っぅ、っく…」


部屋に着いてベッドに下ろすととうとう感情が爆発し、声を上げて泣きながらも袖を握って離さないラスを安心させようとベッドサイドに腰かけると指で涙を拭ってやり、なるたけ優しい声色で諭した。


「今は何も考えないで。ラス…影とはしばらく会わない方がいい。会いたくないでしょ?」


「…うん…」


「じゃあ僕たちに任せておいて。ラス、僕は部屋の前に居るからいつでも声をかけてね」


そして離れ、部屋から出るとドアの前に立ち、息をついた。


――そしてその時、スノウが突然九の字に身体を折れ曲がらせると、老婆のようなくぐもった呻き声を上げた。


「う、ぐぅ…っ、コ、コハク、様…くる、し…っ」


“ラスを傷つけてはならない”という呪いが発動し、今スノウの身体の中で炎が燃え上がり、五臓六腑を焼いていた。


コハクは動かない。

…いや、動けない。


間違いは犯していないが、ラスを失ってしまうかもしれない恐怖に…震えていた。
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