魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハクがラスに見せた光景は夢を伝い、何ひとつ偽りのない先程の出来事をラスに伝えた。

スノウの誘惑に応えなかったこと…

ラスにしか興味がないということ…

光景だけではなく2人で話していた会話まで鮮明で、スノウが勝手に脱いだことも、キスをしたことも、コハクからではない。


「チビ…わかってくれ。俺を信じてくれ」


全てを見せるとおでこから手を離し、恐る恐る顔を近付けてラスの頬にキスをするとまだ少し濡れた感触がして、コハクの胸をずきずきと疼かせた。


そして立ち上がるとバルコニーに出て隣の自室に戻り、決めた。


「おいベルル」


「はい。ラスはどうでした?」


「寝てた。…俺は伝えてきた。だから…チビを待つ。避けられても耐える。話しかけてもらえるまで待つ。チビは絶対…戻って来てくれる」


「そうですよ、絶対そうに決まってます。だからコハク様…泣かないで」


力なくベッドに腰掛けたコハクは弱々しく、いつもの不遜さは微塵もなく、ベルルは俯き、身体を震わせるコハクを抱きしめ、2人の幸せを願った。


――そしてラスは…コハクが去った後、ゆっくりと瞳を開けた。


コハクが見せた光景にショックを受け、コハクを信じてやれなかった自分自身の弱さを悔やみ、涙を流した。


「…私…コーにひどいこと言っちゃった…。どうしよう、謝らなくちゃ…!」


コハクを取り戻すために精霊界にまで行ったのに。

2年もの間コハクを信じてずっと待っていたのに。

あの光景を見ただけでコハクにひどい言葉を浴びせて…どれだけ傷つかせてしまったのだろう。


ラスはティッシュで鼻を押さえながらドアを開け、寝ずの番をしてくれていたグラースとリロイを部屋に招き入れ、誤解だったことを話した。


「誤解だったの。コーは私を裏切ってなんかなかった。今すぐ謝りに行かなくちゃ…」


「ラス…今日はもう遅いし明日にした方がいい。それに僕は君たちは少し距離を置いた方がいいと思う。でないとお互いに見えるものも見えなくなって、また今回のようなことが起きるかもしれない。ラスはどう思う?」


…距離を置く?

それはとても想像できなかったが…ラスは唇を噛み締め、頷いた。
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