魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラにドレスを貸してあげようかとも思ったがなにぶんやはりティアラは胸が大きすぎてラスのドレスは入らなかった。


なので神官衣のままリロイを含めた一家でディナーを一緒に摂り、その間ずっとリロイがラスを見つめ続けていたのを見ていた。


…焦がれる気持ちはわかる。

今までの自分も今のリロイのような瞳でリロイを見つめていたのだろう。


だが運命を受け入れ、リロイではない男に嫁ぐことを決めたティアラは、縺れ合い、交わらない2人の運命の糸を静観することしかできなかった。


「お父様、ベルルとお風呂に入って来ますっ」


「ああ、行っておいで」


憑き物が取れたかのように明るさを取り戻したラスが消えて行くと、それまで笑顔だった面々は急に真顔になり、ティアラは背筋を正して向き合った。


「で、ティアラ王女は魔王が生きているとお思いですか?」


「断言はできませんが…魔王は“死んだ”のではなく、“消えた”のだと思います。だとすればどこかに居るはず。私が思うに…」


「私が倒した時と同じで、どこかで復活の時を待っている、と?」


――カイと同意見だったティアラは頷き、表情の固いリロイをそっと盗み見た。


「彼は不死です。すべての聖石の加護を受けた魔法剣でも倒せない稀有の存在です。今回は聖石の加護も完全ではなく水晶で補っていました。だから…死んでいません」


伏し目がちでワインを口に運んでいたリロイは意見を述べず、ティアラはそんなリロイに苛立ちを感じ、立ち上がった。


「魔王とラスは愛し合っていました。リロイが魔王を傷つけた行為がリロイの本意ではないのならば、ラスが魔王を捜そうとしているのを止めるべきではありません。私からもお願いします」


頭を下げ、颯爽と食卓の間から出ると後を追ってきたリロイから腕を掴まれ、無理矢理振り向かされた。


「本意ではなかった。僕の本意ではなかったんです」


「…ならラスを応援するべきだわ。ラスは死んだってあなたの花嫁にはならない。それはあなたが1番よく理解しているはず」


かつて1度、一夜を共にしたティアラの痛烈な本音は正論。


だが…諦められない。

ラスのことを。
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