魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
それからというもの、再建の手順を覚えた改造済みの魔物たちのペースが格段に速くなり、街はみるみる元の姿を取り戻し始めていた。

壊れかけている家は1度倒して建て直し、中央のメインストリートに大きく走った亀裂を補強し、使える家の掃除をしたり、シルフィードとウンディーネとノームが協力して土や花に潤いを与えて成長を促進させ、ラスを喜ばせた。


そして1日に1度ラスを抱きしめる権利を得たコハクはさぼりもせずに四精霊を操り続け、少しだけラスと会話をし、そして…


ラスが寝入った頃にそっと部屋に入っては額に手をあてて癒しの魔法をかけて疲れを取ってやると、唇に小さなキスをして部屋を出て行く。


…そしてコハクが寝入った頃にラスがそっと部屋に入り、小さな手で指を握っては寝顔を観察し、頬にキスをして部屋を出て行く。


前者は本当に眠っている時に行われているが、後者は…例の如く、狸寝入りだ。

ラスが部屋へ入ってくるのを今か今かと待ち受けていた魔王は残念なほどに様々な妄想を膨らませていた。


「どうしよ…今夜チビに襲われたらどうする俺!身体ぴかぴかにしなきゃ!」


もちろんそんなバラ色の妄想が実現することはなかったが、それはそれで2人は満たされていて、そんな生活が1カ月ほど続いた時――変化が訪れた。


「ねえリロイ、外に人が居るみたいなの。行ってきてもいい?」


「え、人?本当だね、じゃあ一緒に行こうか」


あらかた様々な国を回り終えたリロイがラスが指さした方向を見ると、確かにクリスタルパレスの城下町の入り口付近にはこちらを窺っている人の姿が在った。


ラスが満面の笑顔でリロイと手を繋いで近付くと、5,6人のまだ20代位の男女が緊張して背筋をぴんと伸ばし、頭を下げた。


「いらっしゃい。見学しに来てくれたの?でもまだちょっと入れないの。どこから来てくれたの?」


「お、俺たちはその…流民です。定住する家が無くて、そしたらここの噂を聴いて…」


あまりにもラスが可愛らしくまばゆいのでまともに見ていられずに隣のリロイを見ると、またこちらもまばゆいばかりの色男で、女たちはぽーっとなり、リロイを見つめていた。


新天地を求める人々の来訪にラスの笑顔が弾けた。
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