魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスとコハクが離れている間…リロイとティアラの距離はぐっと縮んでいた。


だがティアラはレッドストーン王国を継ぐ身。

いずれはあのいけ好かない男を迎え、ゴールドストーン王国に次ぐ強国の王女となる身。


だから、リロイは一線を越えなかった。

好いてくれているティアラの気持ちは嬉しいが…一線を越えてしまえばなし崩しになってしまうだろう。


そして未だにラスへの想いを完全に捨てきれていないのも事実。


「リロイ?どうしたんですか?顔色が…」


「え?や、大丈夫です。それよりもラスがまたお節介を焼こうとしてるみたいなので、一緒に手伝ってもらえますか?」


やわらかく笑いかけると、元々意地っ張りで素直になれないティアラは少し頬を赤く染め、流民たちと別れて城へと戻りながらぼそりと呟いた。


「苦手ですけど…頑張ります」


「僕がサポートしますから。流民たちが定住してくれれば彼らにあたたかい家と食事と仕事を分けてあげられます。ここはきっと良い国になる」


ティアラがはにかみ、リロイのマントをきゅっと握った。

それは“手を繋いでほしい”という合図で、リロイが手を差し出すとやわらかい手が重なってきて、小さく笑いながらティアラを嗜めた。


「あなたの婚約者は結構年上だし、きっと大切にしてくれます。上手に甘える方法をあなたは勉強しなくては」


「……その話はやめて下さい。私は…国のために結婚するんです。私の意志じゃないわ」


――今まで避け続けてきた話題をリロイからされたティアラはくしゃりと表情を歪め、立ち止まってしまった。


してはならない話題だと思いつつ口にしたリロイもまた笑顔を引っ込め、ティアラを路地裏へ連れ込むと抱きしめて泣き顔を隠してやり、息をついた。


「…いやなら結婚なんてやめればいいのに」


「国のためです。すべては…国のために。私は…王女なのだから」


たったひとりの王女として頑なに国を守ろうとし、自己暗示を植え付けながら何度も自身に訴えかけるティアラは痛々しく、してはならないとわかっていながらもリロイはティアラの腰を引き寄せて強く抱きしめ、また囁いた。


「結婚なんて…やめればいいのに」
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