魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その瞬間、コハクは自分以外の何者かが魔法を使った気配を感じた。

しかもそれはグリーンリバーの方向からで、オーディンが居ない今魔法を使える者は自分ひとりなので、いきなり身を翻すと…走り出した。


「まさか…チビ…!」


ドラちゃんを駆って戻り、せっせと掃除をしている改造済みの魔物たちが驚いて手を止める中、コハクは一目散にラスの部屋まで走り、ドアが吹っ飛びそうな勢いで中へ入ると…


窓辺にはラスのお気に入りだった薄いピンク色のティーカップとソーラーが絨毯の上に落ち、主に何が起きたことをコハクに知らしめた。


「チビ…どこに…!?」


――動揺し、髪をかき上げながら辺りを見回し、そしてかすかに魔法の気配を感じる部屋の中央に立ち、両膝をついて掌でその気配を探り、見つけた。


「これは…オーディンか!あいつ、チビ何を…!」


あの男の行方はいつも痕跡がなく、辿ることができない。

研究の末に手に入れた千里眼から隠れる術を持っており、しかも人ではないために神から魔法を使う力をも奪われることはないので、自分から身を隠す術も多数持っているはず。


そして、激高するかと思ったコハクから…すう、と表情が消えた。

途端、空には雷雲が急激に垂れ込め、雹が降り出し、雷鳴が轟いた。


拳はわなわなと震え、真っ二つに割れて転がっていたティーカップを拾うと立ち上がり、ぼそりと呟いた。



「あいつ…殺してやる…!俺からチビを…チビを…!」


「コハク!?」



空模様が急変し、何かが起こったことを察知したローズマリーが部屋に飛び込んでくると、一瞬にして部屋を見回し、ラスの不在と様子のおかしいコハクを見て悟った。



「コハク…ラス王女が…?」


「…しばらく留守にする。チビが…オーディンに攫われた」


「え…!?何でも屋さんがそんなことするわけがな…」


「お前も知ってるはずだ。あいつは…戦争と死を司る神。あんななりしてても死を好み、争いを好む男なんだ。ちくしょ…俺のチビに何を…!」



両手で顔を覆い、俯くコハクはラスを失った恐怖に身体を震わせていた。
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