魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「ちくしょう…チビ…チビ…!」

ドラちゃんを駆りながらコハクは何度も憤死しそうな思いでラスを求め、さらに千里眼を駆使しながらくまなく各地を飛び回っていた。

今となっては自他認めるたったひとり魔法を使える者になったが…神や悪魔は例外だ。

“人間の中で唯一魔法を使える者”として…水晶の女王を義理の母に持つものとして、人の枠を超えた絶大な力を保持するコハクの力を持ってしても、ラスが見つからない。


オーディンは今までほとんど魔法を見せたことはない。

ひっそりと使い、それを口にせず、常にサポートの立場として傍に居た男が…反旗を翻したのだ。

しかも、よりによってラスを…!


「あの野郎…必ずこの手で殺してやる…!ドラ、精霊界に行く。扉がある島まで飛べ!」


『精霊界にベイビィちゃんは居ない』


それまで沈黙を守っていたドラちゃんがくぐもった低い声を上げ、空中で停止するとホバリングしながら首を左右に動かし、辺りを見回した。


「…なんでわかるんだよ」


『俺は精霊界の者。あそこにベイビィちゃんが居ればすぐにわかるほど俺とベイビィちゃんの絆は強くなった。契約しなくてもな』


シリアスなコハクとは対照的に、ドラちゃんはぞろりと生えた鋭い牙を見せて笑ったように見えた。


『ベイビィちゃんの匂いは絶対忘れない。精霊界からは匂いがしない。だからこの世界に居る。結界に守られた場所に』


「…やみくもに探しても見つからねえってことか。強固な結界を破る方法…」


――カイに倒される前、研究しかけ、あまりにも難しい術式で投げ出した魔法がある。


それは、どんな結界をも打ち破ることのできる究極魔法のひとつの“ディスペル”。

詠唱呪文も長く、魔法陣も複雑で、おまけに気力も体力も激しく消耗するとされている。


…どこかで強固な結界を張り、ラスを隠してしまったオーディンを引きずりだすためには、これを完成させるしかない。


「グリーンリバーに戻る。俺がディスペルを完成させるまでお前らは見世物として…」


『わかっている。俺も早くベイビィちゃんに撫でてもらいたいから早く見つけろ』


コハクの顔にようやく小さな笑みが零れた。
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