魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ビーストはラスから離れたがった。

だが久々に見た人間だ。

食料は週に1度、近くの島から商人が届けに来るが、城に入るのを怖がり、門の前に置いて逃げるように去ってゆく。

しかし目の前のラスは…鼻歌を唄いながら不器用な手つきで卵を割り、フライパンに投下していた。


「家来の人たちも姿を変えられたって言ってたけどどんな姿になってるの?」


「…お前が手にしているフライパンも家来だし、スプーンやクローゼットもそうだ」


「えっ。じゃあ丁寧に扱わないとね。フライパンさん、こんにちは、ちょっと使わせてね」


いきなりこんな所に連れて来られたというのにほとんど動じなかったラスに動揺しきりのビーストは、その場からダッシュして、あちこちのランプや暖炉に火をつけ、ラスが風邪を引かないように苦心した。

…どの位ここに居るかわからない。

わからないが、あちこちの部屋は荒れ果て、唯一綺麗な部屋は城の最上階の塔で、窓を開けて清潔な空気を入れるとドレッサーに映った自身の姿を見て、目を覆った。


「俺は醜い…。心も…姿も…」


――あの時一泊の宿を求めた老人の魔法使いを追い出さずに城に泊めていれば、こんな結末にはならなかっただろう。

どんなに悔いてもどんなに祈っても、あの魔法使いは現れてはくれない。

ずっと、このままなのだ。

ずっと…


「ビーストさん、ご飯できたよ。あの…ちょっと見た目は悪いけど味見したし食べれたから大丈夫。一緒に食べよ」


金の髪に鮮やかなグリーンの瞳…

高く透き通った声は耳をくすぐり、今まで見たことがないほどに美しい。

こんな女性が、こんな醜い自分と薄暗い城に2人…きっとすぐに耐えられなくなるはずだ。


「…ここはお前の部屋だ。今日からここで暮らせ」


「うん、わかった。ビーストさんのお部屋は?」


「…あちこち見て回ってもいいが、詮索はするな。わかったか?」


「うん、わかった。ねえ、後でお庭に出てみてもいい?コーが助けに来てくれるまで2人なんだし仲良くしようね」


また“コー”という名が出たがビーストも詮索をせず、ラスにマントを引っ張られて仕方なく広間へと向かった。
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