魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
地下室に籠もってがり勉中のコハクの元にリロイが食事を届けにやって来た時、コハクの回りには見たこともない文字で書かれた魔法陣が描かれた紙が多数散らばっていた。

書きかけのものや実際床に描かれたものまで様々で、ここへ来たことも気付いていないのか、一心不乱にペンを取り、顔を上げない。


「影、食事を持ってきた。…影?」


何度呼びかけても顔は上がらず、少し伸びた黒い髪をゴムでしばり、眼鏡をかけたコハクは真剣な面持ちで、リロイが傍らの診察台に腰かけてそんなコハクをしばらく観察していると…


「…なんだよ」


「や、真面目にやってるなと思って」


「ったりめえだろが。チビが居ねえと俺は駄目なんだ。あいつ…マジでぶっ殺してやる」


ぶつぶつ文句を言いながらも手は止まらず、邪魔をしないようにと腰を上げた時、その手が止まった。


「これ、サンキュ」


「ティアラが作ってくれた。…とても心配してる。ラスはじっとしてるタイプじゃないから危ない目に遭ってるんじゃないかって」


「それなんだよなー!チビの奴、ぜってぇちょろちょろしてると思う。オーディンは俺を挑発してえだけだからチビには危害は加えねえだろうけど…あームカつく!」


背もたれに身体を預けて眼鏡を外すと、真っ赤な瞳はさらに真っ赤になっている気がして、リロイはコハクの顔を覗き込んでからかうように笑いかけた。


「…泣いてたのか?」


「泣いてねえし。元々こんな色だし。…チビも泣いてねえはずだ。俺が迎えに行くのを信じて、ぜってぇ状況を楽しんでるはず。ったく…厄介な女に惚れちまったぜ」


「ラスだってそう思ってる。お前みたいな性格が悪い奴と結婚を誓ったなんて…後で絶対後悔するはず」


「ああ!?てめえチビにふられたからって俺にあたってんじゃねえぞ!」


…結局いつものように喧嘩が始まってしまい、元々コハクのフラストレーションを解放してやるつもりだったリロイがファイティングポーズを取ると、コハクは身体の底から出たような長いため息をつくと、倒れた椅子を立てて座り、小さく降参ポーズを取った。


「俺魔法使いだし。お前みたいな筋肉の塊相手にしてると壊れちまう」


少し憂さが晴れ、密かにリロイに感謝した。
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