魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
そんなコハクの心配もつゆ知らず、ラスは長い食卓でビーストと離れて食べるのがいやで、ぴったり隣に寄り添ってゆで卵を美味しそうに頬張っていた。


「…何故隣に座ってるんだ」


「その方が美味しいから」


「…俺が怖くないのか?」


「怖くないよ。ねえ、後で背中に乗ってみてもいい?ライオンロデオしてみたいな」


「!?お前…女だろうが!……鬣を撫でるのをやめろ!」


幾度となくビーストに怒られながらもラスは全くめげず、牙と牙の隙間にゆで卵を放り込んで無理矢理食べさせ、にこーっと笑った。


「独りで食べるのって美味しくなかったでしょ?コーが助けに来てくれるまで一緒にいようね。あ、そうだ!コーが呪いを解く方法知ってるんじゃないかな、コーは何でも知ってるから」


「…コー…?」


「私の将来の旦那様なの。魔法使いなんだよ。目がとっても赤くて、髪が真っ黒で、服もいつも真っ黒なの。すっごく優しくてかっこいいんだよ」


コハクをべた誉めしながらカットしたオレンジを食べ、同じようにビーストの口にも放り込むと、ビーストは鼻でふっと笑うと自嘲した。


「ふん、所詮は綺麗な女にはそれに見合う男が居るというわけか。……もう部屋に戻る」


突然不機嫌になって席を立ったビーストを見上げたラスはそれ以上引き留めず、パンを両手で持って食べながら頷いた。


「ビーストさん、親切にしてくれてありがとう。お城を探検してからお部屋に戻るね」


「…親切?」


足早に部屋を出て自室に向かいながらも、ラスの“親切”という言葉がじんと胸にしみていた。


…今までは我が儘放題でメイドたちや執事を困らせてばかりで、“親切”などと言われたことはない。

だからこそもっとラスに頼られたくなって、最上階の塔の部屋へ入ると暖炉に薪を入れ、部屋を暖めてやった。


「…コー、か…」


男の存在が気にはなったが、その男が呪いを解いてくれるのならば…背に腹は代えられない。


ビーストはドレッサーに映った野獣の姿をじっと見つめた。

はじめて、自身の姿と対峙した瞬間だった。
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