魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「…できた」


――ラスがオーディンに攫われてから2週間。

ほぼ睡眠も取らずに難解な魔法陣を描き上げ、完成させたコハクは眼鏡を外し、大きく伸びをした。


「これ以上離れるとチビ欠乏症で死んじまう」


…死ぬはずはないのだが、心は死んでいるのと同じ。

こうして値がつけられない貴重な書物を紐解き、こんなに真面目に研究をしたのはこれがはじめてだ。

自分に必要ないと考えた魔法は今まで覚えるつもりがなく放置してきたが…

まだまだ知らない魔法が沢山あることを知り、首を鳴らしながら部屋に戻り、シャワーを浴びた。


実験室を出たのも2週間ぶり。

窓から部屋に差し込む太陽の光も眩しく感じて瞳を細めていると、早速ドアをノックする者が現れた。


「コハク、私よ」


「…ローズマリー?」


今まで姿を消していたローズマリーが部屋を訪ねてくると、手には巻物のようなものを持っていた。


まだ髪が濡れ、上半身裸のままのコハクは水滴を滴らせながらローズマリーを招き入れ、会得したディスペルを得意げに話した。


「聴いてくれよ、ディスペルを覚えたんだ。…後はチビがどこに居るか捜さねえと…」


「そのことなんだけど、恐らくここに居るわ」


「は?」


薄いピンク色の髪を無造作にひとつに括ったローズマリーは手にしていた巻物もとい地図をテーブルに広げ、もっとも南西の端に在る孤島を指した。


「世界のもっとも南西端の孤島に小国を治めていた王族が居たの。だけど10年前から荒れ果て、そこに服を着た野獣が住み着いているらしいわ。噂では魔法使いが現れて王子を野獣に変えたという話よ」


「…オーディンか。だけどそんな島あったか?千里眼では見つからなかったぜ」


「結界が働いたからよ。あなたの千里眼で見つけられなかったのなら確実にそこだと思うわ。今から行く?」


吉報をもたらしたローズマリーを思わず抱きしめたコハクは満面の笑みで腕の中ではにかんでいるローズマリーに笑いかけた。


「今から行く!小僧たちを呼んできてくれ!チビ…今から迎えに行くからな!」


愛しの女を迎えに。

そして、神と対峙しに。
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