魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
…こんな状況なのに、コハクは久しぶりに見たラスに見惚れていた。

ラスを抱っこした時の感触…ラスの表情…ラスの声…


空に開いた異空間から薄い笑みを浮かべたオーディンが現れたというのに、オレンジの果肉がついた唇をぺろぺろと舐め、ついでに頬もぺろぺろして可愛い笑い声を上げさせていた。


「コー、くすぐったいっ」


「やっぱチビはかーわいいなあ。“寂しくなかったけど寂しかった”だって?お前俺をきゅん死させる気か!」


「あのー、コハク様?」


「ライオン野郎に何もされてないよな?その格好は俺も大好物……いやいやいやいや、けしからん!太股なんか俺にしか見せちゃ駄目!いやー、すべすべだなあ、後でいっぱい触らせてくれよな」


「あのー…そろそろ相手にしてほしいのですが」


「ああ?邪魔すんじゃねえ!さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ!」


――ようやくオーディンを引きずり出したというのに、肝心のオーディンが現れてもコハクはラスに夢中で、ラスはコハクの肩を揺すりながら呆れ顔のオーディンをひたと見据えた。


「オーディンさんが…私を攫ったの?」


「そ。あいつ、俺に構ってほしくてチビをだしにしたんだ。ちゃちゃっと片づけてくっから降りてろよ。危ないし」


「やだ。コーと一緒に居る」


…また盛大な“きゅん”が胸から聴こえたコハクは、いつもの白いローブに眼帯、手には杖というあからさまな魔法使いルックのオーディンに行儀悪く中指を突き出した。


「てめえマジでぶっ殺すからな」


「ほう?私は戦争と死の神ですよ。不死の命と、永遠の探究心を持つ者。私を殺せる術があるとでも?」


「そう言うと思ってとっておきの魔法を用意してきましたー」


小馬鹿にした口調でラスを左腕だけで抱っこすると、右手を大地に翳し、不敵に笑いかけながらラスを見つめた。


「今からすんげえの呼び出すけど、怖がって泣くんじゃねえぞ。あ、泣いて縋ってもいいけど」


「大丈夫。コー、何を呼び出すの?ワンちゃん?お馬さん?」


「ちげーよ、もっとすんげえやつ」


――オーディンが眉をひそめた。

手を翳した大地にゆっくりと回転する赤い魔法陣が浮かび上がった。
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