魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
誰かに感謝されたこともほとんどない。


自分の感情…さじ加減ひとつで命を刈られるのではないかと恐れられ、魔界でも異端児扱いされ続けた。

特にそれで困っていたわけではないが…


コハクと出会うまでは、“孤独”というものを知らなかった。


「あの娘は叫び続けていた。祈り続けていた。ここにまで声が届くほどにね。死期が迫っているとは思いもしなかったが…お前があの娘を救ったことには必ず何かの意義がある。それを信じなさい」


「………はい」


…すぐ傍できゃっきゃと可愛い声を上げる子供たちの声が聴こえた。

“楽園”と呼ばれる場所に住む神に家族が居るのはわからなかったが、コハクにはいずれ家族ができる。


ラスが死んで…壊れ続けて、狂い続けて、誰の言葉にも耳を貸さないようになるコハクはもうこの瞳には映っていない。


「鎌を見せてごらん」


突然そう言われて、目隠しをされたままのデスは少しふっくらとした唇をきゅっと引き結ぶと長いローブの袖から骨だけの手を出し、一瞬にして鎌を出現させた。

この前までは真っ黒な鎌だったが、コハクが改造してくれて真っ白な鎌に生まれ変わったものを見せると、また神が苦笑した気配がした。


「これはこれは…恐ろしいものを持っているね。そうか…お前は今後また迷うことがあるかもしれない。けれどお前はお前を1番信じてやらなければならない。お前は死を生み出すだけではないのだよ。いつか、いずれわかる」


「………はい」


誰かに腕を引っ張られて立ち上がると鎌を消し、すぐ傍で愛馬が鼻を鳴らす音がしたので飛び乗ってから1度、ぺこりと頭を下げた。


「………神様…ありがとう」


「いいや、こちらこそありがとう。あの娘は今後お前の運命を変えるだろう。逆らわず、波に乗りなさい。そうすれば…お前の求めているものが手に入るからね」


「……求めているもの…?」


いまいちぴんとこなかったが、とりあえず圧迫されるかのような神のオーラからいち早く逃れたかったデスは踵を返すと愛馬の腹を蹴り、楽園から飛び出した。


「魔界まで案内する。咎められなくてよかったな」


「……うん」


だがしばらくは自重しなければ。

やってはならないことをした意識もあれば、安堵したのも事実。


「………また…手を握ってほしい」


この骨だけの手を。
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