魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
カイとソフィーがラスと遊ぶ時間をなかなか設けることができずにいても、ラスは訴えたい言葉をいつも呑み込んでいた。


“寂しい”という言葉を。


「チビは悪くないんだ。俺が…昔悪いことばっかやってたからさ。まあソフィーに限らず大概の奴らはああいう反応するぜ。それが当たり前なんだ」


「…コー…私がずっと守ってあげるからね。コーに悪いことする人たちは私がやっつけてあげるから」


ぐすぐすと鼻を鳴らして悲しむラスの瞳は腫れて、コハクはラスをベッドに横たえさせると何度も腹にキスをした。

ラスはコハクの頭を抱いて、母が結婚を認めてくれないことを悲しみ、嗚咽を上げていた。


「そんなに泣くとベビーも泣くだろ、チビは笑顔が似合うんだから笑ってた方がいい。ソフィーもベビーが生まれたらきっと認めてくれる。今はそっとしとこうぜ」


「…うん、わかった。コー、お散歩しよ。一緒に森を歩くの。さっき走って疲れちゃったから抱っこして」


「走った!?お前なあ…走るなって言ったろ?ったく…目ぇ離すとすぐこれなんだから…」


ぶつぶつ言いつつも抱っこしてくれたコハクの真っ黒な髪を指で梳き、瞼にキスをして首に抱き着いた。


…この人は、自分の勇者様なのに。

それを認めてくれない母とはもうしばらく顔を合わせることはないだろう。

それでいい。

いつかは…コハクと永遠の時を刻んでゆくのだから。

いつかは、別れる運命なのだから。


――2人で部屋を出て螺旋階段を下りていると、やはり皆がコハクを見て眉をひそめていた。

本人は全く気にもしていなかったが、感情的になっているラスは、嫌な視線を向けて来る白騎士や近衛兵、メイドたちに向かって叫んだ。


「そんな目でコーを見ないで!コーは優しい人なんだから!…もう嫌!こんなとこ居たくない!」


「チビ…俺は平気だって。ほら、深呼吸して。大丈夫だから…」


息を呑む面々は脚を止め、過呼吸になって荒い息を上げるラスの背中をコハクは撫で続けた。


こうして庇ってくれる気持ちは嬉しいが…全ての人々に祝福されることは自分の過去を鑑みれば難しい。


今やこのゴールドストーン王国は、今のラスにとって鬼門になっている。


「チビ、帰ろう。森なんかいつだって散歩できる。な?」


「…うん」


返事は小さな声で、皆に届く前に掻き消えた。
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