魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ボトルを空にするまで飲み、デスがローブを着て身支度を整えると、コハクは家を出て空に向けて人差し指と中指を唇にあてて口笛を鳴らした。


『魔王様ー』


「ケルベロス、ちょっと背中乗っけろよ」


『いいよー。チビの所に行くんですよね?わーい!あれ?デスも一緒なの?仕方ないから乗ってもいいよ』


デスが返事をしないのは当然のこととして捉えているケルベロスが『伏せ』をするとコハクが飛び乗り、次いでデスがコハクの背中に乗って腰に捕まった。


「ちゃんとひっついてろよー」


「………うん」


――コハクにとってのデスはまるで“弟”のような存在で、つい構ってしまう。

口数は極端に少なくて、ほとんど会話にならない時もあるが…それでも放っておけず、構い続けてきた。

…実は酒の味を覚えさせたのも自分の仕業だったりする。


コハクは真っ赤な空に垂れ込める黒い雲の間を縫って駆け上がると掌を空に向け、瞬時に魔法陣を出現させた。

この魔法陣を越えると魔界から脱出できる。

デスほどの神ともなれば召喚せずとも地上へ出てくることはできるが、そうしないのは地上には知人が居ないから。

地上に出る時は、命を刈り取る時くらいだから。


好きで“死神”という職に就いているわけではなく、生まれた時から“死神”だったデスからしたら命を刈り取るのは当然のことだろうが…ラスと子供を助けてくれた。

身の上の境遇を自ら語ることのないデスに興味はあったが、いくら友達だといってもそこはデスから語らない限りは聴かないルール。


「さ、出たぞ。おいワン公、スピード上げろー!チビがもう起きてるかもしんねえだろ!」


『魔犬扱いが激しいー!飛ばすよー!』


デスはひたすらコハクの腰にしがみつき、地上はもう夜になっていたので眩しくはなかったがフードが風で背中側に飛ばされ、ぎゅっと瞳を閉じていた。


「俺はアリバイ作りしなきゃなんねから地下に居る!お前はチビが寝てる部屋に行ってろ!」


「………わかった!」


風に声が掻き消されないように精一杯大きな声で返すと、ケルベロスがグリーンリバーの屋上に舞い降りた。


『チビに会いたいなー』


「また明日な。じゃあなデス」


「……うん」


ラスの元へ。
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