魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
エプロン姿の魔物が大量にオレンジを持ってくると、コハクがナイフで器用にオレンジをくるくる回しながら切り、肝心のデスは…今度はラスの隣にぴったりくっついて座っていた。


「…なんか釈然としねえんですけど」


「お酒の味がわかるっていうことは全然味覚がないわけじゃないんだよね?酸っぱいとか甘いって感じる?」


「………うん」


「誰かと一緒に食べると“美味しい”って感じるよ。このオレンジちょっと酸っぱいから蜂蜜かけてあげるね」


テーブルの上にある小瓶には蜂蜜が入っていて、甲斐甲斐しくもそれをコハクが切ってくれたオレンジにかけて口元に持って行くと、コハクが地団駄を踏む展開になってしまった。


「はい、あーん」


「……………あーん」


「あぁああああーーっ!チビ、俺も!俺もあーんする!」


わざと無視を決め込んだラスは指でOKサインを作るとデスの顔を覗き込み、まだずっともぐもぐ動いている口を見ながら尋ねた。


「どう?美味しい?」


「………多分」


わからないながらもデスも骨だけの指でOKサインを作り、怒りにわなわなと震えているコハクを招きよせると膝に乗っかり、蜂蜜がかかったオレンジを口の中にねじ込んだ。


「美味しいでしょ?私だけ?酸っぱいものが沢山食べたいの。美味しくないなら私が全部食べるよ?」


「美味いって。美味いけどチビが全部食っていいぜ。……あーあ、連れて来るんじゃなかったかな」


瞬間ラスの瞳がまん丸になり、コハクの両頬を手で挟んであと数センチでキスできる距離まで顔を近付けた。


「コーがデスを連れて来てくれたのっ?」


「まあな。チビが元気ないのはつらいし…チビはこいつに懐いてたし……お、おいチビ!?…あー、ふかふかー…」


感激したラスがコハクの顔をばふっと胸に押し付け、男なら誰もが憧れる展開に持ち込めた魔王がうきうきわくわくむらむらした時――


「……………俺もしたい」


「ふざけんなエロ死神!チビは駄目!お前俺の天使ちゃんをやらしい目で見たらいくら友達だからって絶対許さねえんだからな!」


「いいよ、おいでおいで」


「駄目ったら駄目!旦那&パパの言うことを聞きなさい!」


押し問答が勃発して収拾がつかなくなると、バルコニーに通じるドアをこつこつと叩く者が。
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