魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
“移住希望の受付会場にゴールドストーン王国の王女が居る”


その噂はあっという間にコロニーに広がり、すでに受付を済ませた者たちも集まってしまい、人だかりの山ができていた。


「次の方どうぞー」


ラスが明るく陽気な可愛らしい声で呼びかけると長い列が少し進み、目の前に座った髭だらけの男はラスを見てぽーっとなって、リロイから無理矢理ペンを持たされていた。


「現在の住まい、年齢、職業、移住の理由などを明確に」


「……ひぃ!は、はい」


まだぼーっとしているとその辺をちょろちょろしていたドラちゃんがのっそりと現れて人垣が割れた。

このドラゴンが悪さをしないことはもう誰もが知っていたが、実はこのドラゴンの主がリロイでないこともラスが現れてから明確になった。


『ベイビィちゃん、俺の背中に乗ってくれ』


「今は駄目だよ、私今お仕事してるから。リロイに遊んでもらったら?」


『俺に乗っていいのはベイビィちゃんと、不本意ながらあの黒い男だけだ。命令されたから乗せていただけ』


「そんなこと言わないの。仕方ないからお腹こちょこちょしてあげる。それで我慢してね」


移民たちが見守る中ラスが椅子から立ち上がると、ドラちゃんは尻尾をふりながら地響きを立ててその場に横になった。

…腹を丸出しにしたドラゴンは奇妙な光景だったが、ラスがドラちゃん専用のデッキブラシで腹を擦ると喉から盛大な“ごろごろ”が鳴り響いた。


――成長したラスは美しさで言えば誰もが認める美貌を持っていたが…いかんせん中身がまだ幼く、黙っていればかなり見栄えがいいのだが、表情がよくくるくると動くので“可愛い”という印象が先立つ。


黒いドラゴンを構ってやっているラスは見ているだけで眼福もので瞳を細めていると、時々ラスが腹を擦っていることも見て取れた。


「ラス、座ってた方がいいわ。疲れが取れる魔法をかけてあげる」


「大丈夫だよ。ドラちゃん見回りよろしくね」


『任せろ』


ラスに見回りを任されて奮起したドラちゃんが砂埃を巻き上げながら飛び立つと、ラスは椅子に座って分厚いリストをぱらぱらと捲った。


…ここで生きてゆきたいと思っている人たちがこんなにも居る。

コハクが建て直したこの国に。


「みんな、頑張ろうね」


自分ではなく、皆のために――
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