魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「あのね、リストを見たんだけど1万人位は居そうなの。仮登録だけ済ませてお家に帰っちゃってる人も多いみたい」


「1万人かー。ここに残ってるのが半数位として…圧倒的に家が建んねえな。そうなると縦に伸びた家の方がいいかもなあ」


「縦に伸びた家?」


熱々のスープをマグカップに注いでいたラスが顔を上げると、コハクはさらさらの黒い前髪をかき上げながら絨毯の上に寝転がった。


「集合住宅ってやつ。1つの家に1家族が住むんじゃなくて、1つの建物に複数の家族が住むやつ。それにすれば1万人は入るな。あとは建築材料と人手と…」


呪文のようにぶつぶつ唱え始めたコハクの膝に上り込んだラスは、ティアラと談笑していたリロイに声をかけた。


「人手って足りてるの?そのお家作れそう?」


「見たことがないからわからないけど、設計図さえあれば移民希望の方の中には建築家も居たしできるんじゃないかな。人手はブルーストーン王国やグリーンリバーで募れば大丈夫だと思うよ」


「コー頑張ってっ。そのお家私見てみたいな」


「よし決定。確か設計図ぽいやつがどっかにあったはず。俺戻るけどいっか?」


「ああ。早く設計図ぽいやつを見つけて建築を始めよう。今は元気でも身体はすぐ疲れて来ると思うからラスももう戻っていいよ」


「うん、じゃあみんなお願いね」


コハクがラスを抱っこして立ち上がり、実はテント内でも日傘を差していたデスも次いで立ち上がった。


まるで親鳥の後をちょこちょこついて回る雛鳥のような有様のデスにもう誰も突っ込みさえ入れはしない。

…魔王は違うが。


「お前は残って力仕事やれって」


「……俺も戻る」


「じゃあ一緒に戻ろ」


コハクの首に抱き着きながらラスが笑いかけると、デスが恥らったように俯いたので、魔王、いらいら。

だがそれを察知したのか、ラスはコハクの耳たぶを指でぷにぷにしながら息を吹きかけた。


「コー、今日は2人で寝ようね」


「……爆発する!」


まんまとラスに乗せられた浅い男の魔王だが、1歩テントを出ると誰にもラスを触らせないようにしっかり抱っこしながら素早く人垣に視線を走らせた。


「チビ、あんま出歩くなよ。出歩く時は俺か小僧かデスの誰かと一緒に居ろ。もし危ねえ目に遭ったら…」


「コーの心配性」


心配し足りない。

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