魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスとデスが手を繋いで螺旋階段を上がっていくのを嫉妬まみれの瞳で見上げていたコハクだったが、ラスが視線に気付いて振り返ると、ちゅっと投げキッスをしてきて、魔王、でれ。


「パパ、頑張ってね」


「おう、後ですぐ行くし」


――デスの滞在は正直自分的にはラスを独占できないので好ましくないのだが、あの死神…少しずつではあるが、いい風に変化していっている。

人見知りな上にすぐいじけるし、何より後ろ向きの性格をしているためにデスと親しくしている者は自分以外に居ない。

デスを変えるような者が今まで現れなかったために、デスもいつしか“自分自身”を諦めるようになっていった。

だが今の彼は…


「まるでガキだな」


ラスを母のように慕い、ついて回る。

自分と同じことをしたがり、ラスの反応に一喜一憂している。

なかなか微笑ましいのだが…


「あいつマジでチビのこと好きになったとか言ったらぶっ飛ばしてやる。や、太陽の下で磔の方がいいか。ふふふふふ」


…ラスの前ではいい子ちゃんをしている魔王だが、実際問題魔物やラス以外の者には容赦ないSの性格をしているので、悪いことを考えている魔王は最高に輝いていたりする。

地下の実験室に着くと重たい扉を閉めてさらに鍵も閉めると完全にひとりだけの空間になり、1番奥の貴重な本が並べられている本棚の前に立った。

この本棚の中に入ってる本の中にはまだ目を通していないものもある。

カイに倒される前各国を放浪していた時に、ありとあらゆる本を探し回った。

興味を引かれたものや知らない魔法のことが書かれている本などを集めて本棚に並べて、いつか活用する日が来れば…と思っていたが。


それは自分に、デスのように“変わりたい”という願望が少しでもあった証。


「ほんっとチビはすごいよなー」


ラスが小さな頃からすごい子だとは思っていたけれど…


「いい子ちゃんを演じるのも別に嫌いじゃねえし。チビが喜ぶんならそれでいっかー」


目的の本を捜し当てると眼鏡をかけてテーブルの上に広げ、ペンを手にした。

知らないことをするのは楽しいし、何よりあの廃墟と化した旧王国が変わっていく様を見るのは楽しい。


コハクはラスの笑顔を思い浮かべながら紙にペンを走らせた。
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