魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】

精霊界の試練

ラスは元々のんびり屋さんだ。

この2年間は悲しんでばかりだったが、精霊界への扉を開けて中へ入ったラスは怖がることもなく四方を見回し、くるっと回って歓声を上げた。


「わあ、すごい…」


春の世界。

優しい風が吹き、足元は草木と花々で覆われ、大地が見えない。

花と濃緑の香りが気分を落ち着かせ、ただ何かが爆発するような音がして瞳を細めて遥か彼方を見ると、そこには火山があり、噴煙の中に雷が見えた。


「…あっちには行かない。行かないもん」


…実は神の鳥のあの2人には方角すら教えてもらっていない。

“危険な旅になる”と言われたのだが、ラスはぽやんとしていて早速ショルダーバッグからポットを取り出して金色の飲み物を少しだけ呑んだ。


「美味しいっ。飴を貰ったけどいつコーに会えるかわかんないし大切にしなくちゃ」


ちゃんと考えているのか考えていないのか…


普通ならば異世界へ来てパニックになるものだが、ラスはのんびり歩を進めながらコハクに再会できる喜びと四精霊がコハクを助けてくれたことに限りない感謝をした。


「コー、みんなが助けてくれたんだね。ほんとによかった…。すぐに会いに行くからねっ」


「人間だ…人間が居る…!」


足元から声がしたので視線を落とすと、チューリップの花の上に2枚の透明な羽を持った水色の髪のツインテールの妖精が驚いた顔で見上げてきた。


「妖精さんだっ」


「どうしてここに人間が居るの?それにあなた…いい匂いがするわ」


「もしかしてこれのこと?妖精さんにも分けてあげるね」


ラスがバッグから取り出したのは小瓶に入った金色の花の蜂蜜で、チューリップの花の前で座ると指で掬って差し出した。


「ありがとう可愛らしいお嬢さん。お礼に何か教えてあげるわ。困ったことはない?」


「あのね、ウンディーネさんたちを捜してるの。どこにいるか知ってたら教えてほしいの」


妖精は貰った蜂蜜を大切そうに透明な袋に詰め込むと、ドアのあった方を指した。


「あっちよ。人間の脚ならすぐだと思うけど、この世界は悪い想像は形になって襲ってくるから気を付けて」


「ありがとう!」


ラス、出発。
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