魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その時リロイはコハクから手渡されたマンションの設計図を食卓の間のテーブルに広げてにらめっこしていた。


人員をどれだけどのエリアに割けば効率が良いのか。

コハクが彼らの賃金を弾むと確約をしたため、募集していた人数以上の人出が集まり、コハクが割り出した作業工程通りに事が進めば半年…いや、3か月ほどで建てることが可能だろう。

その人員とは別にグリーンリバーから派遣された改造済みの魔物チームが居るので、彼らの常軌を逸した力は大いに役立ってくれるに違いない。


「うーん…」


「リロイ、まだここに居たんですね」


「あ…ティアラ…はい、自分の部屋ではなんだか落ち着かなくて…」


「まだ冷えますからこれを。無理はしないで下さいね」


テーブルにことんと置いたのは温かいココアで、ソーサーには数枚のクッキーが添えられていた。

背を向けて去って行くティアラを見ているとなんだか声をかけたくなって、腰を浮かしたリロイは言葉に詰まりながらティアラの背中に声をかけた。


「もし…もし時間があるならここに居ませんか?これもありがとうございます。ちょうど休憩しようと思っていたんです」


「いいんですか?じゃあ…お邪魔します」


白の編み込みのロングカーディガンを着たティアラが隣に座ると、ものすごく細かく描かれてある設計図を見て目を丸くした。

これをあの魔王が描いたのかと思うと正直言って信じられないほどに緻密で正確だ。


「これは…魔王が?」


「ええ。必要な建築資材の数から作業工程まで、1から100まで全部描いてあります。前線に立たない分ラスの傍に居るために僕に任せてくれているみたいです」


「…魔王とラスは魔王城に行ってから何をしたんでしょうか。あなたは…変わりました。明るくなりました」


リロイは万年筆を置くと自身の顔に指で触れてみた。

何ら変化がないように思えるが、気持ちが軽くなったのは確かだ。

何もかも赦されて…ラスが女神のように思えた。


「ラスは本当に…僕を驚かせる名人なんです。あんなに酷いことをしたのに、僕を許すなんて」


ぽつんと呟くと、膝の上に乗せていた手にティアラの優しくてやわらかい手が重なった。


「無理をして忘れようとしないで。…時間が解決してくれます」


自身に言い聞かせるように――
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