魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
とても冗談が通じるような雰囲気ではない。

それにデスが死神で不死だということもすっかり失念してしまっていたし、デスに振り向いてもらえるようにも思えない。


…それにデスはもう…


「あいつはもう…選んでいるんじゃないのか?」


「は?何をだよ」


「…なんでもない。せっかくチェリーを頂こうと思っていたのに。ひとつ貸しにしておくからな」


「ま、あいつがもうちっと変わったらも1回チャレンジしてみろよ。あいつ、意外と肉食系だったりして」


「それじゃあ食い合いになる。骨になるまで共食いか。それも面白い」


せっかくグラースが諦めかけたのにまた火がつきかけない結末になりそうになったコハクは慌ててグラースの隣に移動すると、馴れ馴れしく肩を抱いて真っ赤な瞳で顔を覗き込んだ。


「ひとつ貸しでいいって。あ、なんなら俺の身体を…」


「遠慮しておく。お前こそ肉食系の代表じゃないか、ラスを壊すなよ」


思いきり手の甲をつねりながら肩から引き剥がしたグラースは、鈍く白く光る鎌に目を遣り、それがデスのものであるのを確認した。


「あれは…デスのだろう?どうしてお前が…」


「メンテ。あれは俺が改造したからさ、使った後はメンテしとかないとな」


――使った後。

その言葉の意味通り、デスはあの鎌を行使して人の魂を狩った。

1度の使用で刃が零れたりはしないが、有無を言わさずデスの手から取り上げたのは、デスが手放したがっていたように見えたからだ。


「さっき…チビが寝てる時に“鎌を見せろ”って言ったらめっちゃ嫌がった。あいつは死神の立場の自分自身を疎んでいるんだ。そんでもってチビに鎌を見せるのを嫌がってる。…あいつも変わったなー、おもしれえなー」


「…もしデスがラスを好きになったらどうする?」


これには明確な答えが返ってきた。


「殺す。チビは俺だけを見てなきゃ駄目だ。ま、有り得ねえ話だけどな」


「そうか。じゃあ話は済んだし部屋から出て行ってくれ。お前が居るとゆっくりできない」


「からかう程度はいいけど、チェリー卒業は本当に好きな女ができた時のために取っといてやってくれ。じゃあな」


鎌を肩に担ぎ、ぶらぶらしながら部屋を出て行ったコハクを見送った後、意外と鈍感な魔王に苦笑が込み上げた。


「あいつ…馬鹿だな」
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