魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
部屋の番を任されたデスは、眠っているラスの前に椅子を引っ張ってくると膝を抱えて座って寝顔を鑑賞した。


助けた小さな小さな命は無事に生まれてきて…その子が男の子か女の子かもわかっているし、もう心配することはない。


…だけど、耐えがたく離れ難いこの感情は、なんだ?


ラスを見ているだけで幸せな気分になれるのは、どうして?


「……俺は…俺がわからない…」


「ん…、デス…?どうしたの…?まだ夜…?」


うにゃうにゃとぐずりながら手を伸ばしてきたラスの小指を骨の指でつまむと、こっくり頷いて俯いた。

部屋は明るい照明を嫌うデスを慮り、蝋燭が数本、あちこちに立てかけてある燭台の上で燈されているだけ。

ラスはそれを懐かしむようにふわりと笑って掛け布団をはぐった。


「隣においで。ねえデス、2年前まで私の部屋はいつもこんな感じで暗かったんだよ。コーが私の影だったから」


「……うん。その辺の話…よく知らない…」


「ベビーが生まれるまでずっとここに居てくれるでしょ?今までのこと、たくさん聴かせてあげる。ね?」


ぴったりと身体を寄せてきたラスの明るいグリーンの瞳は、闇の中にも負けない極上のエメラルドに見えた。

何もかも真っ黒で、白いのは身体とこの骨の手だけ…


ラスと居ると、今まで以上に自分自身を疎んでしまう。

だが反比例するように、傍に居たいとも思ってしまう。


「ね、デス…居てくれるでしょ?」


「……でも…魔王が怒る…」


「怒んないよ、コーだってベビーが動いてくれるのを楽しみにしてるんだから。ね?ね?」


抱き着いてきたラスの手が背中に回り、身体が密着した。

胸にあたるやわらかい感触とあたたかさに、バスルームで起こった不可思議な現象がまた起きそうな気がして少し焦ったデスは、いつもののんびりした動作ではなく機敏に寝返りを打ってラスに背を向けると、口から出たのは何故か震えた声だった。


「……うん…そう…しようかな…」


「良かった!コーもきっと喜ぶよ。ね、今日は3人で寝ようね」


半身を起こしたラスはデスの頬にちゅっとキスをしてデスの骨の手を引き寄せると腹の上に乗せて話しかけた。


「ベビー、おやすみなさい」


…指が熱い。

燃えるように熱く、デスの体内で迸る。
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