魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「“エロ”の意味も知らねえくせになに言ってんだお前は。あれか。覚えたての言葉を使いたがるガキか」


「………悪い意味っていうのは…わかる…」


「むっつりよかマシだっつーの。それよかマンドラゴラは不死の薬草だろ?俺がチビを不死にするんだぞ。なんか間違ってねえか?」


勝手にデスの愛馬に跨って手綱を絞ると、デスはその後ろに体重が全くない動作でひらりと騎乗しながら愛馬の尻を叩いた。


「………マンドラゴラは…万能草。煎じ方次第で…きっとつわりも…」


「そっか。世の中まだまだ俺の知らねえことばっかだなー」


空を駆けるデスの愛馬は真っ直ぐにマンドラゴラが自生する切り立った山の頂上に着き、そこで群生するマンドラゴラの異様な数に目を見張った。


「すげえな、なんでこんな数…」


「……誰も採る人が居ないから……」


土から青々とした緑の葉っぱが飛び出しており、土から少し見えるオレンジ色はおよそ人参と言ってもおかしくはないほどに似ている。


だが言い伝えでは引き抜くと…


「お前も俺も不死だけど、勇者様の俺がやる。お前はマンドラゴラの悲鳴を聴こえねえ遠いところで正座して待ってろ」


「……いやだ。俺も…ここに居る…」


頑として言うことを聴かないデスの唇は尖っていて、ローブのせいで表情は窺い知れなかったが断固拒否の姿勢であることは容易にわかった。

やれやれと肩を竦めたコハクがなるべく若々しく瑞々しい葉のマンドラゴラの前に座って葉を引っ張ろうと手を伸ばすと…


「魔王が何の用だ」


「お、喋った!」


わくわくが止まらなくなったコハクが楽しそうな声を上げると、土からめりめりと音を立てて身体半分まで姿を現したマンドラゴラには…目と鼻と口があった。

デスもマンドラゴラが喋ったのを見たのははじめてで、同じように隣に膝を抱えて座り、身を乗り出して骨の手で葉を突いた。


「お前…死神か。ここに何の用だ」


「何の用って…引っこ抜きに来たんだよ。俺の天使ちゃんがつわりで苦しんでてさ」


「お前の天使ちゃんとやらのつわりが治る代わりに俺は死ぬんだぞ。お前も死ぬんだぞ」


「俺は死なねえよ。ま、引っこ抜く前に一杯やろうぜ。いい酒持ってきたんだ」


「…?酒…?」


コハクとデスが顔を見合わせてにやりと笑った。
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