魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
部屋に戻るとまずクローゼットから赤いボタンのついた白いシャツを取り出したラスは、濃紺のネクタイとセットでコハクの手に押し付けた。


「コー、早く“勇者様”になってっ」


「えー!?俺はいっつも“勇者様”のつもりなんだけど!」


「“勇者様”は本当は黒くないんだよ、金髪なの。でも私の“勇者様”は黒いけど、金髪のかっこいい人にも変身できるんだよ」


「そうかあ!?じゃあ…」


ラスにほいほいおだてられてぱちんと指を鳴らしたコハクは、膝を抱えてソファーに座っていたデスと熱烈な視線で見つめてくるラスに得意満面に笑いかけた。

詠唱破棄という高度な技術の持ち主はあっという間に金髪で青い瞳の壮絶な美青年になったが…いかんせん浮かべている笑みがいかにも性格の悪そうな笑みだ。


だがラスはそんなコハクのにやりという笑顔を見慣れているので、ばふっと抱き着くと背伸びをして頬にキスをしまくった。


「“勇者様”になった!デス見てっ、コーが変身しちゃった!」


「……偽物の…勇者…」


「偽物とか言うな!この姿で世界を救ったらどうなるかなー、みんなも俺を“勇者様”って呼んで崇め立てるのかなー」


グリーンリバーやクリスタルパレスに住む者たちは、コハクが以前世界征服を狙った“魔王”であることを知らない。

ラスはそれを言う必要もないと思っていたし、実際“魔王”はホワイトストーン王国以外の街や王国に危害を加えたことはなかった。


どちらかといえば…危機感の足りない各国に警鐘をもたらした側だ。


「駄目だよコー私だけの“勇者様”じゃなきゃ。駄目駄目っ」


…この姿になるとラスから熱心に迫られるしうっとりしてくれるので、ややそれには若干の不満と甘々な展開の予感に密かにコーフンしつつ、ラスの頬をぺろぺろと舐めて抱っこしようとしたが…


「待って、私が着替えさせてあげるっ」


「へっ?あ、ちょ、チビ?まままマジか俺今チビに脱がされてる!!」


シャツのボタンを外されつつ脱がされつつ、この瞬間を記憶に焼き付けておこうとラスを凝視していると、ラスの唇が尖って頬が赤くなった。


「見られると照れるから見ないでっ」


「…燃えた。燃えてきた!」


魔王、最高潮にコーフン。
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