魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
デスの前で痴態を晒しそうになった魔王は、兄貴分として尊敬されていたくてラスを追いかけるのをやめるとリロイの笑顔を真似てにっこりと笑って見せた。


「わあ…、コー、今“勇者様”してるっ」


「だろお?さ、もう怖くないからねー、こっちおいでー」


むぎゅっと抱き着いてきたラスの胸の感触に鼻の下が伸びそうになりながらもデスに目配せをすると、のろのろとブーツを履いたデスはまた鏡の前に立って不安そうにしていた。


「どした?」


「……俺……怖がられる…」


「どうして?どこが怖いの?きっとモテモテになっちゃって女の子に囲まれちゃうよ」


「……?」


デスは自身の容姿に興味がなく、また見られることを疎む。

常に死と共に在り、命を刈る者として周りからも疎まれて、それが当たり前だった日々。

いつからか自然と着るようになったローブはトレードマークとなり、骨だけの手は死神の証として“あの手に触れられると死ぬ”という噂が流れて誰も触ってくれなかった。


「ほら行こ?女の子に囲まれたら私やきもち妬いちゃうかも」


「こらこらチビ?それはなんかおかしくねえか?俺が女に囲まれたらどう思う?」


必死になってラスの気を引こうとするコハクとデスの手を握ったラスは、コハクは握り返してくれたがデスの骨の手はぴくりとも力がこもらず、顔を見上げた。


「デス?」


「………俺に…触ると…」


「怖くないよ。ね、こんなに指が長いんだからきっとお肉がついた手もすっごく綺麗なはずだよね。私神様に“デスの手にお肉をつけて下さい”って毎日お願いするから、きっといつかお肉がついた手になるよ。ほら行こ」


「……うん」


ものすごく嬉しいことを言われて胸があたたかくなったデスは、元々優しい目元をさらに緩めてラスの頭を撫でた。

…そうなると面白くないのは魔王だが、デスに関しては大人になると決めたので、かなりの勢いでチラ見をしつつも口は挟まなかった。


「ところでチビ、ボインとなに話してたんだよ。隠し事反対!絶対!」


「えへへ、秘密。コー、下着屋さんにも行こうね」


「イエス!!」


見事に話を逸らしてコハクをうきうきさせると、やわらかく握り返してきたデスのグローブを嵌めた手をぎゅっとまた握った。


「お散歩楽しみ」


「………うん」


変化が、楽しい。
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