魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
もうこの時には置き去りにされたフォーンのことはどうでもよくて、3人で城を出て春の日差しをたっぷりと浴びた。

だがコハクは終始足元を見ながら歩いているので、ラスはコハクに抱っこされながら耳を引っ張ると、首を傾げた。


「コー、前見て歩かなきゃ危ないよ」


「ちげーよ、俺が転んだらチビが大変じゃんか!ベビーが大変じゃんか!前方はデス担当!」


「………わかった」


返事こそしたものの、魔界の暗い世界で生きてきたデスにとっては春の日差しでもまるで肌が焼けるようで、“…眩しい…”と呟いたデスの低くて気持ちいい声が聴こえたラスは身を乗り出してデスの頬に触れた。


「慣れなきゃ駄目。デスにはずーっとここに住んでもらうんだから」


「………え?」


「へ!?俺そんな話聴いてないんですけどー!」


全く驚きの仰天発言をしたラスは、さも会心のアイディアだと言わんばかりに立ち止まったコハクとデスの顔を交互に見てにこにこ笑った。


「魔界って空気が悪くて暗い所なんでしょ?そんな所に居ちゃ駄目だよ。お日様の光をたっぷり浴びて、夏にはみんなで泳ぎに行って、日焼けして、健康的にならなきゃ駄目。…コー?どうしたの?」


「や…、チビの水着…!水着姿!俺、白希望!」


「デスが“うん”って言ってくれなきゃヤ。それに今年は無理だよ、ベビーがお腹の中に居るんだから」


「こらそこで丸まってる奴!“うん”って言え!」


――デスはこの時膝を抱えて中腰になったまままん丸になっていた。


“こんな眩しい世界で暮らせるわけがない”という心の声と、“こんな明るい世界で暮らしていけば、自分を変えられる”という心の声が交互に飛び交い、何よりはっきりしていたのは…


「…………いいの…?」


「うん、大歓迎。コーもそうでしょ?」


「うー…あー…、まあ…そうだな、それも面白いかもな。よし、今日からお前は俺ん家の居候だ。家賃は…そうだなー、チビを沢山笑わせること!チビの笑顔は超可愛いんだぜ、それでどうだ」


「………うん…わかった…」


「きゃーっ!コー、デス、ありがとっ!これから毎日一緒にご飯を食べようね。一緒に泳いだり一緒にお散歩したり、それにそれに…」


嬉しくて仕方なくなったラスは2人の頬に沢山キスをして代わる代わる抱き着いた。
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