魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
あの暗い世界に戻らずに済む――

気付けば魔界でも町はずれのがらんとした場所にぽつんと立つ家に独りで住んでいたので、あの家に帰るのが当たり前だと思っていたけれど…


ここに住めるということは…

コハクやラスや2人の子供の傍で暮らせるということ。

それは、どんなに穏やかで楽しい日々になることだろうか。


「………本当に…?冗談…とか…」


「冗談じゃないよ、デスにはまだまだ教えなくちゃいけないことが沢山あるし、もっと沢山お話したいし、ベビーの遊び相手にもなってほしいし」


「…………うん…」


「なにいい雰囲気になっちゃってんのかなー。べ、別に怒ってねえけどむかむかするなー!」


小石を蹴飛ばしていじけているコハクに抱き着いて手を伸ばすとすぐに抱っこしてくれたが、顔はむすっとしたままで、ラスはちゅうっと唇にキスをしてコハクの髪を撫でた。


「だってデスがずっと一緒に居てくれるんだよ?沢山色々教えなくちゃ」


「沢山イロイロ教えなくちゃ!?な、なにを教えるつもりだチビ!まさか性のハウツーとか…」


「?コーがなに言ってるのかわかんない」


妄想が暴走して悶えているコハクの頬をむにっと引っ張ったラスはコハクに身体を預けながら嬉しそうにはにかんでいるデスに笑いかけた。


「出発!街の端から端まで探検しよっ」


――街のあちこちには改造済みのエプロン姿の魔物たちがうろうろしている。

彼らの仕事はごみを拾ったり花を植えたり、住民の悩みやお願いを聞いて解決したり、力仕事をしたり多種多様にわたる。

彼らの無尽蔵な力を効果的に活用したのはコハクで、この街は言わばコハクがアイディアを出し、そして魔物たちが作った街だ。


「魔物と共存してるなんてやっぱり変な街。でも私は好き」


「ここが俺たちが暮らしてく街だ。ま、飽きたらすぐに言えよ、あちこち旅しながら暮らすのも面白いしな」


「ほんとっ?コー大好きっ」


にやにやでれでれしっぱなしの魔王と、人に見られるのがいやで俯き加減なデスを従えたラスはまだあまり歩いたことのない街を巡り、人々が笑顔に溢れている姿を見て嬉しさを隠せずにいた。


コハクはかつて恐れられる存在だったけれど、こんなに素敵な街を作った。

この人は、優しい人だ。

そうでなければこんな素敵な街は作れない。


また好きになった。
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