魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
トレイに3人分の蜂蜜レモンジュースを乗せてラスたちの所に戻る間、複数の女たちが物欲しそうにこちらを見ていることにもちろん気付いていたコハクは、自身の感情の変化に驚かざるを得なかった。


「俺ってマジでチビ一筋なんだなー」


――今までの数百年、1日として同じ女を抱いたことはなかった。

まるで服を着替えるように女を替えて、フラストレーションを解消するために女を抱くはずなのに、抱いた後フラストレーションは溜まり続けた。

髪や瞳の色も気にしたことはなく、見栄えのする女であれば誰でも良かったのだが…


ちらちらとこちらに視線を投げてくる女たちはおしゃれだしメイクもばっちりだしスタイルも抜群だが、全くといっていいほど食指が動かない。

逆にこういう女たちを見ているとラスの顔が思い浮かんで、自然と脚は早歩きになっていた。


「あの…」


「うっせえな、話しかけんな」


今のコハクは髪が金色で瞳は青く、女なら誰もが憧れる“勇者様”そのもの。

だが表情にやや問題があるが…中身と外見のギャップにきゅんときている女も多いらしく、ラスなら今のコハクは“外見がリロイで中身がコハク”と言うだろう。

声をかけてきた女は目尻が上がったいかにも気の強そうな美女で、以前なら大好物だったもののやっぱり浮かぶのはラスの笑顔で、コハクは立ち止まらず視線も外さず歩き続けた。


「ちょっとお話しませんか?」


「話すことなんかねえよ。つーかぞろぞろついてくんな。迷惑極まりねえな」


酷い言葉を浴びせて燃える性質なのか、ぞくっときている女たちを放置したコハクは、ベンチでまたいい雰囲気になっているラスとデスが目に入ると盛大な舌打ちをした。


「あーくそっ、やっぱ離れるんじゃなかった!俺の天使ちゃーん、蜂蜜レモンジュースだよー、俺が飲ませてやるよ」


ラスとデスの間に無理矢理割り込んで座ったコハクは、早速膝に上がってきたラスを抱っこしてジュースを口に含むとそのままラスに口移しで飲ませた。

コハクは時々そうやって飲み物を飲ませることがあるのでラスも何の躊躇もなくごくごくと飲み、周りからため息のような息があちこちから聴こえた。


「美味いだろ?」


「うん、美味しい!」


ラスに勝てるはずがない。

コハクも自身の変化に気付く。
< 475 / 728 >

この作品をシェア

pagetop