魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
背中からふわりと身体に回ってきたその腕…


視線を下げると、もう忘れかけていたあの大きな手が…長い指が、見えた。


ただ…淡く白い光に包まれている。


「コー…本当にコーなの…!?振り返ってもいい?いいよね?」


否定も肯定もなく、振り返ると、全身白光している愛しい男が優しく微笑みかけていた。


…自分にしか見せないあの笑顔を――


「コー!本当にコーだ!」


――だがいつもはよく喋り、べたべた触って来るはずの男…コハクはただ微笑むばかりで、あの赤い瞳も少し長く黒い髪もそのままなのに、違和感を感じた。


「コーじゃ…ないの?」


コハクが外を指すともう雷と遠雷は遠ざかっていて、またコハクに視線を戻すと頬に指が伸び、ラスは潤んだ瞳でコハクを見つめた。


「夢…なの…?」


やはり答えない。


でも、夢でもいいと思った。

ここで頑張っていればいつかはコハクに会えるのだから、これが夢であっても幻であっても、たった一瞬この時が2年間の空白を埋めてくれる。


「ここで頑張れってことだよね?コー…わかってるよ、私ね、2年間の間にちょっとだけ大人になれたの。だからひとりでも大丈夫。心配して夢に出てきてくれたんでしょ?」


頬に触れているはずのコハクの指の感触はなく、あたたかさもなく、けれどラスはがっかりすることなく、微笑み返した。


「ありがとうコー。私は大丈夫だから。コー、早く来てね。でないと置いて帰っちゃうよ」


その言葉を理解したのかコハクの指先から淡く白い光が消えて行き、ラスはそんなコハクに手を振った。


「待ってるから。コー…」


――いつの間にか消えていたランプの光を灯し、小さく息をついた時――


かさり。


何か音がして振り返ると、窓際に飾っていた一輪挿しの花の花弁が全て散っていた。


夢幻花(ムゲンバナ)。


見たいものを見せてくれるという幻の花だ。

この花が見せてくれた幻だと知ったラスは花弁を1枚手にしてキスをした。


「ありがとう」


この花に頼らず頑張ろう。


コハクに誉めてもらえるような自分に――
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