魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
優しい時間が流れていた。

リロイが起きるまでは起こさずにおこうと決めて、端正な美貌なのに寝顔は少しあどけなくて見惚れていると…


そんな時間を喧騒にまみれさせる男がいきなりテントに乱入してきた。


「ティアラ王女!」


「きゃ…っ!?ふぉ、フォーン王子…」


乱入してきたのはグリーンリバーから馬を走らせてやって来たフォーン王子で、汗まみれでとても王子とは言えない風体にティアラが身を固くすると、リロイがむくりと起き上がった。


“触れてはならない”という男と男の約束を交わしたフォーンは、自分に触られるのは死んでもいやだ、というような表情をするティアラがリロイに想いを寄せていることにさすがに気付いていた。


「ティアラ…膝枕とはどういうことですか?私には指1本触らせてはもらえないのに」


「…リロイからは触られていません。私から言ったんです。リロイは毎日この街のために走り回って…」


「詭弁ですね。ティアラ…私の目にはあなたがこの白騎士に惚れているように見えます。この際はっきりしましょう、どうなんですか?まさかもう…」


「勘ぐるのはやめて下さい。仮にもあなたの婚約者であり、王女です。彼女を蔑むつもりであれば、僕からフィリア女王に進言しますよ。“フォーン王子はティアラを幸せにはできない”と」


「な…っ、お前にそんな資格はない!ではティアラ…あなたは清き身なのですね?誰にも肌を見せたことはないのですね?」


「…」


ふいっと顔を逸らしたティアラの態度にむかっときたが、野心あるフォーンは何もしなくてもこの手にレッドストーン王国が転がり込んでくるチャンスを逃しはしない。

それにこんな美しい王女が手に入るのだから、多少の我慢はしなければ。


「あなたとの初夜…忘れられないものにして差し上げますよ。では私もこの街を見て回って来ます。また後ほど」


――フォーンがテントを出て行くと、気持ち悪くて吐き気を催したティアラは身体を九の字に折って両手で口を覆った。

何度も込み上げてくる吐き気に耐えて、隣で唇を噛み締めているリロイに震える手を伸ばした。


「リロイ…手を握って…っ」


「…ティアラ…」


重なった手には、思いきり力がこもっていた。

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